Byline ICS

PhDではなく一橋ICSのDBAプログラムへ | 卒業生の声

作成者: Hitotsubashi ICS|Apr 26, 2021 12:37:22 AM
一橋ICSでは博士課程であるDBAプログラムもありますが、
実際のDBAプログラムがどういったものなのか語られる機会がほとんどありませんでした。今回は初めて、一橋ICSMBA卒業生でありながら2020年9月にDBAプログラムも卒業された髙岡明日香さんにインタビューをしました。
 

働きながらパートタイムでDBAを卒業された明日香さん。なぜ博士課程の道に進まれたのか、DBAでの5年間をどのように過ごされたのか、研究テーマや時間のやりくりについてなどたっぷりお話を伺いました。今回はインタビューを二回に分けてお届けいたします。

自己紹介をお願いします。
 
富士ゼロックス(現:富士フィルムホールディングス)から企業派遣で一橋ICSMBAに進学後、2007年に卒業し、その後13年間コンサルティング業に従事してきました。
最初はマッキンゼー・アンド・カンパニーの東京とフランクフルトオフィスにて広範な戦略案件に携わっていましたが、結婚出産を機に人事コンサルティング領域へ移りました。主に社長指名にかかるアセスメント業務をロンドンで3年、残りの期間を日本で担当しました。最後はタワーズワトソン社にて、アセスメント事業のアジア責任者をしていました。
社長指名にかかるアセスメントは、海外では心理学博士しか行えない業務です。赴任先のロンドンでは、心理系の資格を網羅的に取得しましたが、より本格的に専門性を高めたいと思い、2015年、一橋ICSDBAプログラムにパートタイムの学生として入学しました。入学後、MBA学生との共同研究や東京大学の授業に招待いただく経験などを経て、徐々に教員職への思いが大きくなり、2019年よりグロービス経営大学院大学経営研究科(MBAで専任教員准教授として教鞭をとっています。
 
一橋ICSのMBAプログラム卒業時(2007年)
 
入学当初はアカデミアに進もうという気持ちはなかった
 

入学時は純粋に社長指名領域の専門性を高めたいという気持ちでした。DBA3年目くらいからMBAの学生と共同研究をはじめ、他大学からパネリストとして呼んで頂く、講演をする機会が増えてきました。その中で徐々に、人生後半戦は若い世代に恩返し貢献する、会社でなく自分の名前で研究成果を発信する生き方にシフトしていきたいという気持ちが強くなってきました。いよいよ博士論文を執筆する段階で、人生100年時代のより長いキャリアを考え、大学院教員という道を選びました。

心理学の博士課程ではなくDBAに進学
 

いくつか理由はありますが、まず心理学については、当時パートタイムの博士プログラムが日本にはなかったという理由です。また、ひとくちに心理学といっても、私の場合は精神科医や心理療法士を志向していたのではなく、指名業務の対象であった社長の心理学を探求していたため、ビジネス領域で学びたかったということです。また、一橋ICSMBAプログラム在学時のゼミ指導教授が野中郁次郎先生でした。マッキンゼーに勤務していた頃から研究をしてみたらとのお話を頂いていたこともあり、一橋ICSDBAに進学することを決意しました。

一橋ICSが第一候補だった

もしロンドン赴任が長引いていたら、現地で他の選択肢はあったかもしれませんが、日本では一橋ICSDBAだけを受験しました。学術的に世界レベルでありながら、実践的で実業に精通しているという点で一橋ICSは他にない立ち位置だと思います。東京大学の博士課程も検討はしましたが、各研究科で縦割りの研究体系となっているため、心理学の専門で進むと心理学のみを排他的に深める環境と伺いました。私の研究テーマは、心理学に閉じるというよりは経営学や社会学の要素を多分に含んでおり、寧ろそれら隣接領域との関連が「肝」である側面もあり、この点からも一橋ICSが最適だと考えました。 

PhDではなくDBAへ
 

研究をするうえでの動機が、研究の先に広く企業や経済界、ひいては社会へのインパクトにある場合は、DBAは良い選択肢だと思います。一方のPhDは概ね、対象はアカデミアであり、学会に論文を投稿することがゴールだと思います。悩ましいのは、アカデミア向けの学術論文を常に読みこんでいる企業経営者は少数派だということです。私は、アカデミアにくわえて企業経営者や広い社会のビジネスプロフェッショナルに向けて研究、発信をしています。そういう意味でもDBAを選択しました。

またアカデミアでは、ビジネス経験それ自体は必ずしも評価されませんが、一橋ICSDBAではビジネス経験を活かした博士研究に価値を見出しています。社会人学生にとってはご自身の実業経験を最大限に活かした研究を進めていける最高の選択肢だと思います。

 

DBAプログラムの流れ

私はパートタイム学生として5年間でDBAを取得しました。最初の13年目は必修科目である、統計分析手法や定性研究手法などの単位を取得しました。フルタイムだとこの単位を2年程度で取得することになるかと思います。

博士課程の大きな流れとしては、基礎科目単位を取得するフェーズ、これと並行して各ゼミで研究テーマについて発表し議論して内容を深めていくフェーズ、博士論文を執筆するフェーズの三段階があると思います。

一橋ICSのゼミやネットワーク

一橋ICSDBAプログラムでは、MBAと同様にゼミに所属します。進学を考えている方はご自身の研究テーマや所属するゼミについて、DBAプログラムのディレクターである阿久津聡教授と事前にお話しされることをお勧めします。ご自身の興味のあるテーマを専門とする教授はいらっしゃるのか、具体的にどのように指導くださるのかを確認することは何よりも重要です。私の場合も入学前に阿久津教授と何度かお話しする機会をいただき、教授が私の研究テーマに興味をもって下さったので、入学しました。

入学後は研究テーマに基づいてゼミに所属し、月に1回程度、定期的にゼミの担当教授や先輩・後輩・同級生に研究内容について発表する機会があり、質疑応答をしたり、アドバイスを頂くことができます。大きいゼミは7-8人の学生が所属していますが、小さいゼミは教授とほぼ一対一で話し合いながら研究を進めていきます。MBAに比べるとDBAのゼミは更に密度が濃いです。ゼミでは、各人は夫々異なる研究をしていますが、大テーマを共有していますので、このゼミから幅広い示唆を得ることができます。論文のテーマが大きく変更したり、ゼミの先生が退職するなどのことがあればゼミが変わるケースもあります。ただ通常は、複数領域を指導できる教授ばかりなのでテーマが多少変わってもゼミは変わらない場合が多いです。また、主担当は一橋ICSの教授ですが、博士論文のコーチとなる先生は必ずしも一橋ICSの教授でなくてもよく、一橋ICSの先生を通じて国立キャンパスの他研究科の先生にご指導いただくこともあります。研究科を越えて各分野の第一線で活躍する一橋大学の教授陣からご指導いただけることは一橋ICSならではだと思います。

 次の記事では博士論文の研究やどのように仕事とのバランスをとりながら博士課程を過ごしているか、一橋ICSDBAで得られたことなどをお届けします。